そうこうしている内に機体は雪と氷に埋もれたトロムソ空港に到着。ターミナルの外に出て見ると空気が凍りつくようだ。気温は約1度。空港周辺には凍りついた荒野と雪を抱く山々の光景が広がっている。「北の大地」を通り越してすでに「地の果て」の風情たっぷりである。しかしここはまだ北緯69度。私が目指すは北緯71度よりさらに高緯度のヨーロッパ最北の土なので、まだまだ通過点に過ぎない。とはいえ北極圏の限界線の緯度66度33分はすでに越えており、このトロムソも夏は白夜、冬は太陽が地平線から昇らない土地だ。ちなみに日本の最北端の稚内・宗谷岬が北緯45度31分であるから、その緯度の高さはすでに日本の常識をはるかに超えていることがわかるだろう。

そんなトロムソ空港はコンパクトながら意外にも施設が機能的に整備されている。21世紀になって建てられた日本の地方空港ターミナルに北欧デザインのスパイスを加えた、といったところか。インターネットのWi-fi接続が1時間無料との表示があるのでさっそく試そうとすると、まず携帯のテキストメッセージ(ショートメール)でパスワードを受け取る必要があるという。あいにく手持ちの携帯は圏外となっていたので、なにかいい方法はないかとキオスクのお姉さんに尋ねると、「あら、じゃあ、あたしの携帯でやればいいよね」と代理でパスワードを受信してくれた。機内同様、多くの人たちが一見寡黙でシャイだが、実はとてもフレンドリーなのである。もしかしたらこれがノルウェー人の国民性なのか、と感激して、礼の意味も込めてたいして飲みたくなかったコーラを買う。すると「あら、気を使わなくてもいいのに」と笑顔を返すなど、どこまでも気さくで気持ちのいい人たちだ。

ノルウェー4

そんなふうにしてインターネットに接続したのは、この先のフライトの予約のためである。さらに北の街に向けた国内線の航空路線があることは知っていたが、予約はせずにここまでやってきた。というのもノルウェーはIT環境が整備され、LCCも興隆していることを知っていたからである。情報端末からWiderøe(ヴィデロー航空、スカンジナビア航空系のLCC)のウェブサイトで1時間半後に出発の便の予約を難なく完了。ネット環境とLCCがあれば、どこにいても最低限の空の旅を快適に続けられることを実感する。ノルウェーの物価や25%の消費税を反映した運賃の高さには閉口するが、日本の国内線の正規運賃程度なので我慢出来ないほどではない。

* 最北の地・ホニングスヴォーグへ

さて、早々にトロムソに別れを告げてヴィデロー便で向かう先はホニングズヴォーグ(Honningsvåg)である。この街を目的地にしたのは、そこがヨーロッパ大陸最北端の岬・ノールカップ(Nordkapp)へのゲートウエイだからだ(ノールカップは実際には「島」にあり、厳密には「大陸」の最北端ではない、との指摘もある)。観光地の岬に足跡を残すこともさることながら、ヨーロッパ大陸最北の街とはどんなところか、そしてその空港がどんなところか、どんな人の暮らしがあるのか、一度は自分の目で見てみたいと思ったのだ。

フライトはトロムソ空港の雪の滑走を難なく定刻に離陸した。機材はデビハラント・カナダ/ボンバルディアの双発ターボプロップ機ダッシュ8(DHC-8)。39人乗りだが、機内には私の他にはビジネスマン風の男性、家族連れ、中年の女性、そして若者ら、計20人ほど。さしずめ辺境のローカルバスである。

途中の寄港地のハンメルフェスト(Hammerfest)に到着するとほとんどの旅客はそこで降り、引き続き最終目的地まで乗るのは私を含めて5人になる。夏の旅行シーズンが終わればそんなものなのかと思いつつ出発を待っていると、キャプテンが開け放しのコックピットドアをくぐってキャビンに出てきた。なにやらアナウンスするらしい。機体が小さいからか、乗客が少ないからか、人恋しいからからかは不明だが、マイクを通さずに直接話すようだ。機内前方のシートの背もたれに手をかけながら笑顔で「はい、見ての通り私、機長です。みなさん聞いて−」というフレンドリーさである。私の顔を見て英語でいいか、と聞くので頷くと説明が始まる。なんでも、出発を少し遅らせるとのこと。その理由はこの便は最終目的地のホニングスヴォーグに到着後、折り返し便としてトロムソに向かう最終便となる。それは、ここハンメルフェストに立ち寄らない直行便である。今日はもうハンメルフェストからトロムソ行く便はない。よって、今日これからここハンメルフェストからトロムソに向かう旅客は、私と同じ便で一度ホニングスヴォーグに北上してから同じ機体で折り返す。そしてそんなトロムソ行きの旅客がハンメルフェスの空港に到着するのが遅れているが、待ってこの便に乗せたいという。まるで山手線からの乗り継ぎ乗客を待つ新宿発の私鉄終電のような遅延理由である。周囲はもう氷のような雪が吹きすさぶ極寒の世界。これはもうカスタマーサービスというより、ほとんど極地探検の相互扶助の心意気ではないか。なんとも言えない暖かな気分に浸り感激したのもつかの間、その後なんとわずか5分ほどで待っていた旅客2人は到着しすぐに機体は離陸した。たった5分のために、5人の乗客に向けて機長自らあの親切な対応である。そもそもが時間厳守の国なのか、きっちり案内する習慣が徹底しているのか、なんとも頼もしく信頼のおける姿勢だ。

出発を待っていた間、機長がコックピットに戻らないので、こちらからいろいろと質問してみた。北極圏を飛ぶのは特別なことなのか?「別にどおってことないね」。荒天で遅延・欠航はあるのか?「ほとんどないよ。うちら今年で80周年の航空会社だけど、単発プロペラの時代から氷点下の猛吹雪の空飛んだり、凍りついた滑走路に発着してるからね」とのこと、まるで極寒の海に漁に出る北国の漁師のような自信である。「それより、この時期にノールカップねえ」とニヤリ笑われたことのほうが気になる。「どうして?」と聞く前に出発時間となり、機長はコックピットに戻ったのだが。

ノルウェー5

ホニングスヴォーグまでの空路、ジェット機よりも大きな窓からは果てしなく続く凍りつく岩場や湖らしきものが見える。フィヨルドの一部だろうか。生き物の気配はほとんど感じられない。「とんでもない所にきてしまった」という気持ちで、ホニングスヴォーグに到着。空港はフィヨルドの入江の奥に海に面しており、冷たい風と氷のような雪が吹きすさぶ。

施設は極めてシンプルで、ターミナルには職員が2人だけ。空港長兼ディスパッチャ―兼受付などもろもろ全部担当の人と保安検査機器を操作するセキュリティ担当者である。セキュリティ担当者は到着便の荷物を機体からターミナルに運ぶほか、出発便への搭載もやっている。そうか空港業務は最低2人でいいのか、と妙に感心しながら、空港から宿泊先の街の中心部まで交通手段はタクシーを呼ぶしかしかないことに気付く。日本の携帯のローミングサービスは圏外で、公衆電話はあるもののノルウェー・クローネのコインはない。くだんの2人の空港職員は折り返しの出発のハンドリングで忙しそうだ。

そうこうしている内に機体は雪と氷に埋もれたトロムソ空港に到着。ターミナルの外に出て見ると空気が凍りつくようだ。気温は約1度。空港周辺には凍りついた荒野と雪を抱く山々の光景が広がっている。「北の大地」を通り越してすでに「地の果て」の風情たっぷりである。しかしここはまだ北緯69度。私が目指すは北緯71度よりさらに高緯度のヨーロッパ最北の土なので、まだまだ通過点に過ぎない。とはいえ北極圏の限界線の緯度66度33分はすでに越えており、このトロムソも夏は白夜、冬は太陽が地平線から昇らない土地だ。ちなみに日本の最北端の稚内・宗谷岬が北緯45度31分であるから、その緯度の高さはすでに日本の常識をはるかに超えていることがわかるだろう。

そんなトロムソ空港はコンパクトながら意外にも施設が機能的に整備されている。21世紀になって建てられた日本の地方空港ターミナルに北欧デザインのスパイスを加えた、といったところか。インターネットのWi-fi接続が1時間無料との表示があるのでさっそく試そうとすると、まず携帯のテキストメッセージ(ショートメール)でパスワードを受け取る必要があるという。あいにく手持ちの携帯は圏外となっていたので、なにかいい方法はないかとキオスクのお姉さんに尋ねると、「あら、じゃあ、あたしの携帯でやればいいよね」と代理でパスワードを受信してくれた。機内同様、多くの人たちが一見寡黙でシャイだが、実はとてもフレンドリーなのである。もしかしたらこれがノルウェー人の国民性なのか、と感激して、礼の意味も込めてたいして飲みたくなかったコーラを買う。すると「あら、気を使わなくてもいいのに」と笑顔を返すなど、どこまでも気さくで気持ちのいい人たちだ。

ノルウェー4

そんなふうにしてインターネットに接続したのは、この先のフライトの予約のためである。さらに北の街に向けた国内線の航空路線があることは知っていたが、予約はせずにここまでやってきた。というのもノルウェーはIT環境が整備され、LCCも興隆していることを知っていたからである。情報端末からWiderøe(ヴィデロー航空、スカンジナビア航空系のLCC)のウェブサイトで1時間半後に出発の便の予約を難なく完了。ネット環境とLCCがあれば、どこにいても最低限の空の旅を快適に続けられることを実感する。ノルウェーの物価や25%の消費税を反映した運賃の高さには閉口するが、日本の国内線の正規運賃程度なので我慢出来ないほどではない。

* 最北の地・ホニングスヴォーグへ

さて、早々にトロムソに別れを告げてヴィデロー便で向かう先はホニングズヴォーグ(Honningsvåg)である。この街を目的地にしたのは、そこがヨーロッパ大陸最北端の岬・ノールカップ(Nordkapp)へのゲートウエイだからだ(ノールカップは実際には「島」にあり、厳密には「大陸」の最北端ではない、との指摘もある)。観光地の岬に足跡を残すこともさることながら、ヨーロッパ大陸最北の街とはどんなところか、そしてその空港がどんなところか、どんな人の暮らしがあるのか、一度は自分の目で見てみたいと思ったのだ。

フライトはトロムソ空港の雪の滑走を難なく定刻に離陸した。機材はデビハラント・カナダ/ボンバルディアの双発ターボプロップ機ダッシュ8(DHC-8)。39人乗りだが、機内には私の他にはビジネスマン風の男性、家族連れ、中年の女性、そして若者ら、計20人ほど。さしずめ辺境のローカルバスである。

途中の寄港地のハンメルフェスト(Hammerfest)に到着するとほとんどの旅客はそこで降り、引き続き最終目的地まで乗るのは私を含めて5人になる。夏の旅行シーズンが終わればそんなものなのかと思いつつ出発を待っていると、キャプテンが開け放しのコックピットドアをくぐってキャビンに出てきた。なにやらアナウンスするらしい。機体が小さいからか、乗客が少ないからか、人恋しいからからかは不明だが、マイクを通さずに直接話すようだ。機内前方のシートの背もたれに手をかけながら笑顔で「はい、見ての通り私、機長です。みなさん聞いて−」というフレンドリーさである。私の顔を見て英語でいいか、と聞くので頷くと説明が始まる。なんでも、出発を少し遅らせるとのこと。その理由はこの便は最終目的地のホニングスヴォーグに到着後、折り返し便としてトロムソに向かう最終便となる。それは、ここハンメルフェストに立ち寄らない直行便である。今日はもうハンメルフェストからトロムソ行く便はない。よって、今日これからここハンメルフェストからトロムソに向かう旅客は、私と同じ便で一度ホニングスヴォーグに北上してから同じ機体で折り返す。そしてそんなトロムソ行きの旅客がハンメルフェスの空港に到着するのが遅れているが、待ってこの便に乗せたいという。まるで山手線からの乗り継ぎ乗客を待つ新宿発の私鉄終電のような遅延理由である。周囲はもう氷のような雪が吹きすさぶ極寒の世界。これはもうカスタマーサービスというより、ほとんど極地探検の相互扶助の心意気ではないか。なんとも言えない暖かな気分に浸り感激したのもつかの間、その後なんとわずか5分ほどで待っていた旅客2人は到着しすぐに機体は離陸した。たった5分のために、5人の乗客に向けて機長自らあの親切な対応である。そもそもが時間厳守の国なのか、きっちり案内する習慣が徹底しているのか、なんとも頼もしく信頼のおける姿勢だ。

出発を待っていた間、機長がコックピットに戻らないので、こちらからいろいろと質問してみた。北極圏を飛ぶのは特別なことなのか?「別にどおってことないね」。荒天で遅延・欠航はあるのか?「ほとんどないよ。うちら今年で80周年の航空会社だけど、単発プロペラの時代から氷点下の猛吹雪の空飛んだり、凍りついた滑走路に発着してるからね」とのこと、まるで極寒の海に漁に出る北国の漁師のような自信である。「それより、この時期にノールカップねえ」とニヤリ笑われたことのほうが気になる。「どうして?」と聞く前に出発時間となり、機長はコックピットに戻ったのだが。

ノルウェー5

ホニングスヴォーグまでの空路、ジェット機よりも大きな窓からは果てしなく続く凍りつく岩場や湖らしきものが見える。フィヨルドの一部だろうか。生き物の気配はほとんど感じられない。「とんでもない所にきてしまった」という気持ちで、ホニングスヴォーグに到着。空港はフィヨルドの入江の奥に海に面しており、冷たい風と氷のような雪が吹きすさぶ。

施設は極めてシンプルで、ターミナルには職員が2人だけ。空港長兼ディスパッチャ―兼受付などもろもろ全部担当の人と保安検査機器を操作するセキュリティ担当者である。セキュリティ担当者は到着便の荷物を機体からターミナルに運ぶほか、出発便への搭載もやっている。そうか空港業務は最低2人でいいのか、と妙に感心しながら、空港から宿泊先の街の中心部まで交通手段はタクシーを呼ぶしかしかないことに気付く。日本の携帯のローミングサービスは圏外で、公衆電話はあるもののノルウェー・クローネのコインはない。くだんの2人の空港職員は折り返しの出発のハンドリングで忙しそうだ。