東京駅、22時。
通勤の人の群れに、スーツケースを引く姿が入り混じる。
かつては日本中を走っていた夜行寝台が次々に姿を消す中で
根強い人気を持ち続ける、サンライズ。
その魅力を味わい、ついでにうどんも堪能せんと欲張って、旅に出る。

サンライズ1

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東京駅、22時。
通勤の人の群れに、スーツケースを引く姿が入り混じる。
かつては日本中を走っていた夜行寝台が次々に姿を消す中で
根強い人気を持ち続ける、サンライズ。
その魅力を味わい、ついでにうどんも堪能せんと欲張って、旅に出る。

サンライズ1
ぶらりとはいけない

サンライズ瀬戸は、東京ー高松間を約9時間半で結ぶ寝台車だ。東京駅を出る時は「サンライズ出雲」と連結された14両編成。岡山で前の7両(瀬戸)と後ろの7両(出雲)が切り離され、かたや山陰路、かたや四国路をめざし、夜を越えて走る。

利用するためには乗車券と特急券。寝台を利用するならば寝台料金もかかる。空の旅も低価格化し、移動の選択肢も増え、安さや移動時間を重視する人々から敬遠されてか、多くの寝台列車が姿を消した昨今だが、長距離を移動する寝台列車の旅の面白さは、安さ、速さとは別の尺度の価値でしか測れない。多少の効率の悪さを引き換えにしても、体感したい「旅時間」のなかで得る経験がそこにはある。

サンライズ2

東京を目指す285系を新子安で撮影。その名前の通り朝日がよく似合う。1998年のデビュー当時には、グッドデザイン金賞を受賞するなど、従来の寝台車とは一線を画したモダンな車体が話題になった。Photo by: INUBUSE

寝台車ファンにとって最後の砦とも言えるサンライズ。当然、鉄道旅行を愛する人からの視線は熱いが、それだけではない。22時東京駅発車ということで、仕事を終えてから乗り込むことができる利便性の高さは、さまざまな層の旅人から人気を集める。

希望の日に予約が取れるかどうかは運しだいで、「ぶらり」と旅行をする、という感じではないのだが、(ネットでの予約もできない。)この多少のわずらわしさを含めて、始まる前からめいっぱい「楽しむ」ことができるのも、またサンライズの旅の醍醐味である。

サンライズ3

連結されたサンライズ。上りの場合も、岡山駅で連結作業を行い、14両編成で東海道を走ってくる。Photo by: INUBUSE

コンパクトで清潔な車内

車内は個室を中心とした作り。全体に木目の自然な色使いで落ち着く。時間制のシャワールーム、小さいラウンジもあるが、個室やノビノビ座席以外の設備と言えばそのくらいで、豪華寝台という感じではない。時間を惜しんで西へ東へ移動する人々のビジネスユースにも適応した、質実な寝台列車なのである。

サンライズ4

荷物の置ける棚。ラジオ。必要最小限にまとめられたコンパートメントはさっぱりとして気持ちがいい。

乗車後しばらく、車窓からの夜景を見ながらビール等を飲むうちに、睡魔に誘われて横になる。そもそも、横になるのが一番居心地の良い設計になっている。ガタターン、ゴトトーン、という鉄を打つ響きが背中の下から、断続的に聴こえてくる。α波の気持ちいいゆらぎに身を任せるうちにいつしか夢の中へ…。