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タンゴ発祥の地といわれるボカ地区のカミニート

日本の真冬に訪れたアルゼンチン。南半球なので真夏なうえに、猛暑で気温は37℃になっていた。

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タンゴ発祥の地といわれるボカ地区のカミニート

日本の真冬に訪れたアルゼンチン。南半球なので真夏なうえに、猛暑で気温は37℃になっていた。

猛暑の中、歩いて回るよりましかと思い地下鉄を利用してみた。でもなぜかタダ乗り可。乗客は皆、柵を乗り越えるかゲートを勝手に開けるかしてホームに入っている。切符を買おうと窓口に行ったら、ここを通れと駅員がゲートを空けてくれる。意味がよくわからない。ホームも妙に暗いし…。地下鉄経営は破綻しつつも一応運行している状態なのか? 南米の経済情勢が安定しないのはこういうことが原因なのではなかろうか。

地下鉄無賃乗車も居心地悪く、ブエノスアイレスの地理にも慣れてきたので、タクシーをおおいに活用することにした。タクシーにはメーターもついており、ラテンのノリでドライバーのトークが面倒なこともあるけれど、案外使える。

タンゲリーアでプロのタンゴショーは観たが、普通の人のタンゴが観たい。ならばミロンガに行くしかないでしょう。ミロンガは音楽の一ジャンルでもあるが、アルゼンチンのタンゴダンスサロンのことを指す場合もある。もちろん今回は後者。

早速タクシーでミロンガ「Confiteria Ideal」へ。
1階はこんなレトロな雰囲気のレストランになっている。

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2階がミロンガのようだ。まず入場料を支払い、好きな席に座る。ウェイターにドリンクをオーダー。観ているだけでも、ダンスに参加してもどちらでもよいらしい。

向こうではタンゴダンサーたちがレッスンを受けている。どうやらミロンガの合間にレッスンがあるようだ。レッスン後にミロンガが始まる。アジア人と思われる人もちらほら。海外からの参加者は若い人が多いのに比べ、アルゼンチン人は老人ばかり。本国で伝統的なものが若者に人気ないのはどこの国でも同じ傾向なのか。

ミロンガが始まってしばらくすると、先ほどまで踊っていたアジア人のオジさんが「日本人ですか?」と声をかけてきた。さらにこのオジさんと一緒に踊っていた日本人女性も休憩しにこちらへ来た。この二人がタンゴ素人の私にいろいろ解説をしてくれた。

てっきり二人は一緒にアルゼンチンに来たのかと思ったら、今回のレッスンで知り合ったばかりだという。ほかにもスイス人、アメリカ人、台湾人などタンゴ好きが世界からタンゴを習いに集まっているようだ。この二人もタンゴを習うためだけに毎年アルゼンチンに来ているとのこと。羨ましい!

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このオジさんの解説によると…
タンゴにもショー用のタンゴとミロンガ用のタンゴがあり、ショー用のタンゴは振りが派手で、ミロンガはじっくりと味わいながら踊るものらしい。
「ほら、あそこの韓国人の若い女性が踊っているでしょ? 上手いけど、ショー用のタンゴだから、ここではふさわしくないよね」とのこと。確かに上手にくるくる回って、脚もずいぶん高く上げて踊っているが、周りと比べてちょっと浮いている、激しすぎる。
「あそこの老人のステップ観て!静かに踊っているけれど、リズム感もばっちりだし、本当に奇麗なステップでしょ? かなり上級者のダンスだね〜」なるほど、一見地味に見えるけれど、そこはかとない雰囲気とタンゴのリズムに合った美しい浮揚感がある。そこいらの若造には絶対出せない味わい深さ!

さらにオジさんの解説は続く…
「あそこのオジさんは身体を女性にくっつけ過ぎで、あれはマナー違反だね。タンゴってのは基本的に身体をくっつけないものなんだよ!」
なるほど。私もJazzダンスをやっていたのだが、どうも社交ダンス系は男性と身体をつけて踊らねばならいことに抵抗があってチャレンジしたことがなかった。タンゴならよいかも!と思った。

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そう、タンゴに対してそんな「密着」の偏見があったため、自分がタンゴを踊るという想定がないままアルゼンチンに来てしまった。しかし、スイス人のお兄さんにも、あっちのおじいさんにも踊らない? と誘われ…基本のステップすら知らないで踊るのはマナー違反のため、お誘いに応えることができず非常に残念。悔やまれる。

ミロンガでは男性が女性を誘って踊るのがマナー。つまり男性が誘わないとダンスが始まらない。単なるナンパではなく、上品にマナーに則って、優雅に美しく振る舞い、距離感を保ちながらお互いの呼吸を合わせて踊る。なんて素敵な文化なのだろう。おそらく、踊っている老人たちの若い頃にはミロンガから生まれた恋愛もあったのかな、とセンチメンタルな妄想に駆り立てられる。アルゼンチン人の若者がいなかったのが気になったけれど、日本にもこういう文化が入れば、楽しいだろうに。
是非次回アルゼンチンに来る際は、少なくとも基本のタンゴステップをマスターしてから行かねば!

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