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南インド・ベンガル湾を臨むマハーバリプラム

南インドのチェンナイ市内からローカルバスを乗り継いで、海岸沿いに約60キロ南に下ると、世界遺産に登録されている「マハーバリプラムの建造物群」がある。

マハーバリプラムはインド亜大陸の東、ベンガル湾に臨む、かつての東西貿易の拠点であった港湾都市。世界を相手にしたその「かつて」というのが紀元4〜9世紀というから、やはりインドの歴史はあなどれない。当時のヒンズー教のさまざまな建造物や石窟が残り、現在は、歴史的な遺構群として地域全体が整備され、海沿いの街全体が歴史と観光のリゾート地のようになっている。

ローカルバスがゆっくりと到着するバスターミナルは街の中心にある。ターミナルと言ってもバスが5、6台、順番にやって来ては駐車し、また静かに出発するだけの広場なのだが、そこから商店街やゲストハウスが軒を連ねる道路、建造物や石窟などの各見所などが点在するエリア、砂浜へと続く屋台などが並ぶ砂利道などが広がっている。街と周辺エリア全体は意外に広く、気温の高さも相まって(日中は体感で摂氏40度近くにもなる)、すべてを歩いて見て回るには相当の体力が必要だ。料金をぼられないように気をつけて、バスターミナルで繰り返し声をかけてくるオートリキシャー(東南アジアのトゥクトゥクに相当)を上手に利用したい。

まず訪れたいのが「ガンガーの降下」と呼ばれる岩壁彫刻。高さが9メートル、幅が27メートルある岩山に直接、古代インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」の一場面である「アルジュナの苦行」のストーリーとされるレリーフが彫られており、生き生きとした神様や水牛・猫・猿の姿を間近に見ることができる。石彫りのレリーフとしては世界最大の規模なのだという。並んで、岩を掘り出して堂を作った石彫寺院(ラタ)もあり、ここにもレリーフが多く彫られている。レリーフはどれもどこか柔らかで華奢である。ゆっくりと緻密な彫刻技術を見て、そのストーリーを追ってみるといいだろう。

さらに公園を進むと巨石が斜面から転がり落ちそうで落ちない「クリシュナのバターボール(バターロック)」がある。それはいわゆる摩訶不思議な光景で、かつて象8頭で引っ張っても動かなかったという伝説があるとか。岩は半球状で、バターボールの一部をナイフで切り取ったようにも見える。その名は、ヒンズー教の神・クリシュナがバターボールを好んでいたことに由来するという。

海岸に向かって続く細い道と公園の先に「海岸寺院」がある。かつて波打ち際に建造された複数のヒンズー寺院のうち、ただ一つ今も残る遺跡で、波と風による表面の風化が長い長い時の流れを物語る。それでも寺院本体の石の造りはとてもしっかりしており、その建設技術の高さがよく分かる。各所にはさまざまな彫刻や彫塑が今も残されている。それらを、過去の人たちからの現代へのメッセージ、と理解してもいいかもしれない。ベンガル湾の波間を背景にそれらを見て、かつてこの地から世界への海上交易ルートが興隆していた時代を、さらにはその時代にこの海岸寺院が果たした役割に思いをはせてみたい。世界遺産の遺跡群の入場料金(外国人)は250インドルピー(約450円)。ビデオカメラを持っていると別途25インドルピー(約45円)徴収される。

周辺地域にはその他にも多くの石窟や遺構が散在するので、ゆっくりと時間をかけて巡ることをお勧めする。石窟や彫刻・レリーフなどからの伝統なのだろう、街には石彫の工場や店舗も多くある。オーダーに応じてその場で石片やオブジェに好みの形状などを彫ってくれる店もあるので、ぜひ覗いてみるといいだろう。街中にはローカルのレストランだけでなく、ゲストハウスも多い。もし旅程に余裕があるならこの街に数日滞在してみるのもお勧めだ。南インドの穏やかな空気感と、人々のやさしさ、そして歴史と海に囲まれた海沿いの街の暮らしを満喫できるに違いない。

ちなみにチェンナイ市内とマハーバリプラムを結ぶローカルバスは、走行中も窓とドアがいつも開けっ放しで、利用者のほとんどが地元の人たちだ。ローカル度は極めて高いが、バス車両には路線番号(市内からマハーバリプラムまでは「599」番と「A1」番)と目的地の英語表記があり、また車掌以外の乗客にも英語を話す親切な人が多いことから、東南アジアなどのローカルバスよりはるかに快適に利用できる。なお、ローカルバス車内では、進行方向に向かって左側の座席がほぼすべて女性専用シートになるなど、ローカルの独自ルールもあるので気をつけよう。道中は車窓から、都会とはまた違った緑豊かな田舎の景色を眺め、車内でも買い物客や学生など、さまざまな地元の人たちの生活の一端を見ることができるのが楽しい。運賃は片道約40インドルピー(約70円)。思ったよりハードルは高くないので、南インドを訪れる機会があればぜひ試してみるといいだろう。


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