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空と海の境界をさがして 国境のまち・石垣で心を放つひとり旅 

日本最南端のリゾートと言われ、離島の代表格である、石垣島
八重山諸島をめぐるツアーの中心となるこの島は、夏の間 観光客でにぎわう
その喧騒からすこし離れ、ローカルのアドバイスをたよりに、車を走らせる休日
青空と海の継ぎ目、自分と世界とのつなぎ目をさがして…

Photo by: ぐん

離島めぐりの玄関口

石垣島の位置は、沖縄本島から南西に400キロ離れている。同じ県でありながら、東京と神戸ほどの隔たりがあるのだ。その間にはさんご礁の海が広がるばかり。以前は、那覇からの乗り換え便しかなく、遠くにある島というイメージが一般的だったが、2013年に新しい空港ができるのに伴い、直行便が就航し格段にアクセスしやすくなった。

南ぬ島(ぱいぬしま) の愛称を持つ、新石垣空港に到着しようとするANA機。2013年に新空港ができ、東京(羽田)、関西(関空)、中部(セントレア)、福岡の各空港から直行便でアクセスできるようになった。台湾からの直行便もある。

石垣島に航空路が整備されたのは、昭和31年である。
船のみが主要な交通であったそれ以前、石垣港は「美崎(ミシャギ)泊」と呼ばれて、島の玄関口として栄えた。

現在の石垣港=石垣離島ターミナルは、八重山観光の玄関口。いつでも祭りのようににぎわっている。

日本最南端の都市

石垣市の人口は約49,000人。日本最南端の市である。初めて訪れた人は「意外と都会だな」という感想を抱く。実際に市街を歩くと「離島」のイメージとは異なり、都市の機能を備えた便利な町であることがわかる。若い人も多く、季節ごと街中でイベントが行われ、とても活気がある。古くから、与那国、竹富、波照間などの島々をつなぐ交易の中心として栄えていたまちの面影を、今もしっかりと残している。

農協の運営している市場。品揃えもよく安い。観光シーズンには列ができる。

大きくてみずみずしいとうがん。豚肉と一緒に炒め煮にするとおいしい。

マンゴーの食べごろは6月~8月

多くの人が石垣島に対して持っているイメージと異なり、石垣島は熱帯雨林気候ではあるが「常夏」ではない。夏は暑く、青空が広がるが、冬は寒く曇りや雨の日が多い。観光に訪れるのであれば、3月の中旬から11月までに来てほしい、と石垣に住む人は言う。

湿潤な空気と熱気。島に着陸する前から、海の中に広がるさんご礁を見ることができる。海の美しさももちろんだが、マングローブやさとうきび、ヤエヤマヤシなどの葉が織り成す深緑も目に楽しい。風がやってきて、青空にうかぶ白い雲を追いたてるように緑をゆらす。道は整備され走りやすいが、コンビニなどはまったくないので、ドライブの際にはかならず事前に飲み物などを用意しておこう。また、観光シーズンにレンタカーで石垣島をめぐるつもりならば、予約は必須である。

青空とサトウキビ畑しか目に入ってこない気持ちのいい道を20分ほど、西に向かって走った。

フサキビーチは穴場だ。ホテルのプライベートビーチのようなたたずまいだが、実は誰でも出入りすることができる。波も静かで、砂もとてもきれいに保たれているから、子供を安心して遊ばせられる。水の透明度は高く、足のどこまでが水に漬かっているのかわからない。足裏に感じる砂の感覚も、やわらかく繊細だ。

ドライブの途中に立ち寄れば、こんなにプライベート感のある名もなきビーチが。

名蔵湾を見ながら79号を北上し、分岐を西に向かうと、石垣島の西端エリアに着く。
そこで行くように勧められたのは、御神埼(おがんざき)灯台だ。
一般の人は灯台に入ることはできないが、手すりのついた階段を上り、灯台のふもとまで登ることができる。そこから西側は、さえぎるもののない東シナ海を見渡すことができる絶景ポイントなのだ。市街地からそう遠くないわりに、あまり観光客で混み合うことがない。芝生も広く、ピクニックをしている地元の人もちらほらといる。

岩場に上ることもできるが、下を見ると足が震える。

東シナ海を一望。

ここから台湾までは、約200キロ弱。
この島は、那覇までよりも、台湾のほうが近いのだ。そういう意味ではここは、日本中のどこよりも、外国に近いのかもしれない。数年後には、台湾と石垣島を結ぶフェリーが就航するかもしれないという話もある。そうすれば、いちいち大都市を経由せず、昔のようにローカルに国境を越え、人やものが行き交うことができるようになる。石垣島から足を伸ばして気軽に台湾に行けるとなれば、旅行の選択肢や愉しみが増えるに違いない。古くから色々な文化が潮目のように交じり合って発展してきた石垣島の、活気の秘密はこの空や海に象徴されるように、リミッターがないところかもしれない。

石垣島は、実は南十字星と天の川を同時に観ることができる、天文ファンにはうれしい場所。
なかでも、この御神埼は海に沈む夕陽を眺め、そのまま海上にきらめく星々を堪能することができるポイントとして人気がある。

心が結びついて、まるくなる

アーサー汁定食。アーサー(あおさ)は1月から4月にかけて島で採れる。素朴な味わいが、疲れた胃袋に染み渡る。伝統的で、素朴な石垣料理。地元っ子から愛されているのがわかる。

石垣島で食べたいものは、石垣牛に八重山そば、さまざまな野菜のチャンプルーなど、選択肢は多くなかなか楽しい。もしも冬に訪れたのであればおすすめは「アーサー汁」だ。アーサー(あおさ)は、冬が旬。石垣で冬に採れるアーサーは、特に繊細でおいしいと評判なのだ。

食堂で、東京ではなかなか見ない光景に出会った。

赤ちゃん連れの旅行者がゆっくりと食事ができるように、店の人が子供を抱いてやっている。
なるほど、これが「ゆいまーる」なのか。

石垣だけではなく、沖縄全体にある考え方である「ゆいまーる」は、「結ぶ」「まるくなる」というところから派生した「助け合い」の精神である。この島に何度か足を運ぶようになれば、自然と身についてしまうという。

石垣では親しみをこめて泡盛を島酒、「しま」と呼ぶ。石垣で作られているのは「八重泉」「おもと」など。

この旅にあたって、穴場スポットを教えてくれたのは、3年前に、神奈川県川崎市から石垣島へ移住したという男性。「島」を酌み交わしながら、色々な話を聞かせてくれた。

「有り体に言えば、都会が煩わしくなって飛び出してきたんです。あの頃は仕事上のストレスを抱えたりして、身体的にも、精神的にも参っていた。環境も含めて自分のことを見つめなおしてみたくなって。それまでにダイビングで何度か訪れて気に入っていた石垣島に、生活の場を移しました」

今までのかかわりや、持ち物などはほとんど処分して、石垣島に移り住んだ。
「もちろん、そんなに簡単なことじゃなくて、しばらくはかなり苦労しましたよ。でも、あの時の決心のおかげでいまの幸せを手に入れたと思っています。」

島の生活になかなかなじめなかったとき、彼を救ってくれたのは「ゆいま~る」だった。疲れて歩いていると、声をかけてくれて、わざわざ車を家に取りに行って送ってくれる人がいた。何かと気遣って、生活用品などをわけてくれる人もいた。

はじめは、移住者同士どこかで出会っても、親しくすることをはばかっていたが、それも今思えばないところに壁をつくりたがる、都会の考えだった。気が合って、話が弾むなら、それでいいのだ。

スコールの後、大きな美しい虹にのアーチに出会う。思わず「ゆいまーる」とつぶやく。

この島に来て変わるのは、おそらく「境」の概念。

となりの国との境界にあって、その分かれ目は見えず、
空と海とは溶け合って、海と浜との区別もなく、
色の概念さえあいまいになるような蒼(あお)と碧(みどり)のなかで。

国や文化の間に線をひくことの無意味さに気がつく…
いや、そんな大げさなことではなくとも。
自分が囲ってきた心の一部を解放して、悩みから解き放たれる。
それは、なににも替え難い、愉快な経験ではないだろうか。


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