インドネシアは人気がある。特にバリは、ハワイより手軽に行け、物価も安いリゾート地として、衰えない人気を持つ旅行先だ。そこに流れている時間と、人々の優しさは日本人のみならず様々な国から来た観光客の心をつかむ。
職業柄、生活をするように旅をすることに慣れている。豪華なホテルに泊まって非日常の体験をするのも悪くないが、どちらかと言えば普段の生活の延長で別の国に行って、その文化に馴染みたいと考えるほうだ。今回は、バリでツアーガイドを営む男性と意気投合し、彼の家のある村に連れて行ってもらった。それは、空港のあるデンパサールから北に30分ほどいったところにある、のどかな村だった。
それぞれの家は、三世代が同居しているのが普通だと彼は言う。つまり、親の家の敷地の中に、自分の家を建てる。兄妹も同じ敷地内に家を持つ。
バリの宗教はヒンドゥーで、神を祀る祭壇も家にひとつある。建物は石と瓦屋根、もしくは茅葺きで出来ていた。屋内に入れてもらうとひやりとしていて、外の暑さから一転、過ごしやすそうだ。炊事場や洗濯場は共用ということだった。
村の中をぶらぶらと散歩すると、人々はたいてい顔見知りで、ガイドの彼の人柄か笑顔で声をかけてきてくれる。一つの村の中には集会所と、銀行機能のある店が一つある。バイクに乗っている人が多く、車もけっこう走っている。大きな買い物は村の外でしてくるようだ。
表玄関に派手な飾りをした大きな家があった。日本人向けのツアーも多数手がける旅行社を経営する社長の家で、祝い事があるのだという。中に招き入れられ、お茶と談笑の輪に入れてもらった。祝い事の張本人である娘さんが着ているのは、上質なレース素材のカバヤ。必ず本人の身体に合わせて作るというぴったりとした上衣、そして鮮やかな色のサロンは、インドネシアの女性の美しさを際立たせるといつもながら思う。
お茶の他に、こちらもどうぞ、と勧められた。このうちはバリハイではなく、ビンタン派のようだ。辛口のピルスナータイプのビンタンビールは、インドネシアのビールの中でももっとも飲みやすくのどごしがいい。
楽しい招待に感謝しながら、村に別れを告げて、食事に向かう。
案内されたのは、ごく普通のレストランだったが、インドネシアの食事は、美味しい。どこで何を食べても、日本人の口に合う。サテー(焼き鳥)、ミーゴレン(焼きそば)、えびせん…。ほのかなココナッツ風味の甘さは、どちらかというとジャワ島風の味付けだった。
それから、最近日本のデザインの現場でも話題になり、世界中から熱い注目を集める「竹の建築」で作られた、Green Schoolの見学に向かった。
グリーンスクールは、2008年にウブドの郊外、シヴァン村の一角に開校した。設立したのは、カナダ人のデザイナー夫妻。ビジネスで成功をおさめた二人が、方向を転換して本格的に着手したのは「持続可能な」理想の教育だった。バリの熱帯雨林の中で、ふんだんにある「竹」という建材に着目して。さらに、周囲の環境に負担をかけないために行う、水力などの再生可能エネルギーを使った発電や、自給自足の生活すら教育の一環として提示している。シュタイナー教育を実践し、3歳から18歳までの子供達が英語を共通語として共同生活を送る。
http://www.greenschool.org/
申し込めば誰でも見学ができ、ツアーを行ってくれる。「サステイナビリティ」という言葉を日常的に目にするようになった昨今である。世界的にもこの施設への関心は高いようで、この日も、我々の他にも沢山の国から見学者が訪れていた。竹の教室はほどよく使い込まれており、よく見ると、ホワイトボードも、車の廃材で作られていた。
未来のリーダーを育成する学校として一躍有名になり、世界各地から入学希望者が後を絶たないGreen Schoolだが、息を飲んだのがその全てが竹で作られた建造物群だった。実際に目の当たりにすると、デザイン性の高さには舌をまいた。簡素で、しかし美しいフォルム。確かに竹でしかこの形は実現できなかっただろうと思われる、独特のデザイン。
これらをデザインしたのは、バリのデザイナー集団「IBUKU」である。現在はGreen Schoolの周囲にたくさんのバンブーハウスが作られ、オーナー不在時には一般客が宿泊することもできるという。次に訪れる時には、是非泊まってみたいものだ。
バリ、と言えば誰もが海を連想するかもしれないが、こんなバリの過ごし方もある。今や、この島はデザインや「エコ&サスティナビリティ」思想の最先端にある。片や、伝統的な生活を守る牧歌的な村を昔のままに保存しながら、片やデザインや教育の最先端施設を持つ、バリの新たな魅力にすっかりハマってしまった。
(だがやはり、バリの海は当然美しいのだ…。)