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京都の秋、ふた色 ~『東福寺』の燃える紅とつやっつやの緑と~

京都五大山のひとつ、『東福寺』。紅葉の名所を訪ねました。1255年の建立です。
ダイナミックな地形を活かして伽藍を巡る橋から望む谷間は、さながら紅い“雲海”のよう。
一方、東福寺方丈にある「八相の庭」の北庭には、つややかなウマスギゴケの緑と市松模様の敷石がしっとりとした風情を醸し出しています。
中世と近代、犠牲と再生の“紅と緑”に注目してみました。

参道には立派な道標があり、迷わず行けます。京阪線「東福寺駅」から、徒歩10分。

途中もハッとするような紅葉が続き、あっという間に境内へ

東福寺は、摂政関白藤原家(九條家)が、当時の最高の寺院である東大寺と興福寺、この2寺院にあやかり、「東」の文字と「福」をそれぞれ入れて名づけた、当時の都最大の大伽藍を建立したもの。1236年着工で、19年かけて完成させた禅林・古刹です。
本堂と普門院を隔てる谷、洗玉澗には2000本といわれる楓が植えられ、近くで見てよし、橋から眺めて良しの紅葉の名所になっています。

名勝・通天橋を渡るには拝観券が必要です(500円)。シーズンの週末には、入場まで2時間待ちになることもあるとか。

長い渡り廊下のような通天橋。小雨がぱらついても屋根があるので、安心ですね。紅葉のピークは少し過ぎていましたが、夕方の電車くらいの混雑ぶりでした。写真を撮る人あり、紅い雲海を眺める人あり、それぞれの秋に浸っている様子。

橋に名称を掲げてくれる親切設計。どこにいるか迷わず進めます

紅葉の名所、東福寺には桜の樹がことのほか少ないといわれています。
それもそのはず。1400年ごろ、それまであった桜の木を切ってしまい、代わりに楓を植えたとか。将軍足利義持が、東福寺で修行中の僧が素晴らしい絵を描いた褒美に、何が所望か?とたずねると「桜に浮かれ騒ぐことは、修行の場にふさわしくないと思います」と申し上げたからと伝えられています。
その発言に感激した義持、東福寺の桜を全て切らせてしまいます。今でも数本の山桜を数えるくらいで、ほとんど桜はありません。
確かに紅葉狩りでは、お弁当を持って宴会とはならないですね。

それにしても、桜をいきなり切らなくても…と思います。
自分の発言で樹が切り倒される様を見た修行僧の心中を察すると、複雑な心持です。
代わりに植えた楓のおかげで、紅葉の名所となった訳ですが。

想像以上の高低差です。遥かな谷に小川が流れ、ピーク時には燃え立つような“紅い雲海”が見られたことでしょう。

洗玉澗に下りてみると、まじかに紅葉が楽しめます。

地を覆う、散紅葉もまた、美しい紅葉の姿。

同じ東福寺でも、訪れる人がぐっと少ない本坊庭園、「八相の庭」。ゆったりと鑑賞できます。日本庭園史の研究家、重森三玲が1939年に完成させました。
庭は4つなのに八相?と思いますが、命名のいわれは、「八相成道(釈迦の生涯の8つの重要な出来事)」から。四庭に配した、「蓬莱」「方丈」「北斗七星」などの8つの情景を表しています。
当時の創建年代にふさわしく、鎌倉時代庭園の質実剛健な作風を基調に、現代芸術の抽象的構成を取り入れた近代禅僧庭園の白眉として、名高いそうです。

「南庭」。南正面に設けられた表門は、昭憲皇太后の寄進と言われています。

「西庭」。さつきの刈込と砂地を大きな市松模様に図案化し、中国の田制「井田」にちなんで「井田市松」と呼ぶ。北庭への途中には「通天台」という舞台があり、眼下に渓谷「洗玉澗」が望める。

「北庭」は、ウマスギゴケの緑と敷石で色鮮やかな市松模様。敷石は、元は恩賜門に使われていた石材です。
重森三玲は作庭の際に、「廃材を利用のこと」との条件を設けられていたそうです。その難問を見事に解消しつつ、友人の彫刻家、イサム・ノグチに「モンドリアンふうの新しい角度の庭」と言わしめたオリエンタル・モダンのデザインは、重森三玲の力量を余すところなく表しています。
当時は、白砂が敷石との間にあったそうですが、時と共につやつやのコケがどんどん育ち、今の姿に。捨てる神あれば拾う神あり。いや、こちらはお寺でしたね。御仏のご加護で育ったみずみずしいお庭でした。

「北庭」は、西庭から続くパターンとして描かれているそうです。市松が小さくなり、そのまま東庭に続いていくように配置されています。

最後の「東庭」には、砂地に丸く模様が描かれている「雲文様地割」に、円柱の石を配置し、北斗七星を表しています。この石も、もちろん東司の柱石の余りを利用したもの。

桜の樹を排して、紅葉の名所となった東福寺。
反対に「八相の庭」では、廃材を活かして新たな名庭を生み出しています。
この不思議なご縁の紅と緑、機会がありましたら、ぜひお尋ねください。

後方の生け垣は天の川を表して、小宇宙を作りだしているそうです。


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