日本から直行便のないバングラデシュ、ダッカに入るにはキャセイパシフィック航空の香港経由、タイ国際航空のバンコク経由、マレーシア航空のクアラルンプール経由、シンガポール航空のシンガポール経由などが一般的だ。日本のJICA(国際協力機構)などの開発援助関係者やビジネスマンらは圧倒的にこのようなレガシーキャリアを乗り継ぐ割合が高いと聞く。しかし私は開発援助の関係者でもビジネスマンでもなく、どこに行くにも目的地の国のエアラインを利用することを心がける一介のコストコンシャスな旅人である。今回のダッカ行きにも、バンコクから往路にユナイテッド・エアウェイズ(米ユナイテッドエアラインズとは無関係、以下「ユナイテッド」)、復路にビーマン・バングラデシュと、共に迷わずバングラデシュ国籍の会社を選んだ。
バンコク・スワンナブーム国際空港の片隅のバス搭乗ゲートから向かった先のランプに佇むのは、航空博物館の野外展示のような古ぼけたユナイテッドのデ・ハビランド・カナダDHC-8-100型機だ。色あせ剥げかけた塗装により、一瞬、主翼が凹んでいるように錯覚し、本能的な不安を覚える。機体収納式のステップから搭乗すると、機内もまた博物館展示の旧型機のモックアップのようなレトロな趣である。
バングラデシュで「新興」とされるこの航空会社をピックアップしたのは、ビーマンに比べて定時運航率が高い、と耳にしたからだ。バンコクからは期待どおりの定時出発で、幸先の良さに喜ぶ。上空では機内サービスとしてペットボトルの水と食事は配られるものの、アテンダントの姿勢は決して積極的ではなく、機内エンターテイメントは一切ない。「この会社、質素ながらも堅実なサービスがモットーなのだ」とポジティブに自分に言い聞かせるが、出発時のシートベルトサイン点灯後も旅客はキャビンを歩き回り、離陸時にも座席の足元や通路に手荷物ははみ出していたあたりは、グローバル・アライアンスを基準にすると、ただ驚くしかない。
フライトタイムは約3時間。バングラデシュ領空に差しかかる頃には午後6時を回り、周囲の空は次第に夜になってきている。しかし機内では照明は点灯されず、薄暗いままだ。読書灯もなく手元さえはっきりと見えない状態でも文句をいう乗客は一人もおらず、アテンダントはひと通りのサービスを終えてギャレイーの奥に引っ込んでしまっている。しかたがないので窓に目をやると眼下の地上にはほとんど光もなく、遠くの雷雲には稲妻が走っている。揺れに合わせてエンジンとプロペラの音が不安定に聞こえるのは気のせいだと思うことにした。暗さに慣れた目で改めて辺りを見回してみると、約70席の機内は8割り方埋まっており、南アジア人以外の風貌の旅客はどうやら私だけだ。「エラい所に来てしまった」という気持ちがこみ上げてくるが、これは旅の高揚感の一部だということにしておこう。
ダッカのハズラット・シャージャラル国際空港に到着し、入国イミグレーションに向かうが、「FOREIGN PASSPORT(外国人旅券)」のカウンターに進んだのは、私一人だ。この時間帯の到着便はユナイテッドだけなので、機内でバングラデシュ人以外は実際に私1人だったようだ。
空港ターミナルは思いのほか大きい。少々古くも一国の首都空港にふさわしい堂々たる施設である。国際空港としての旅客設備はひと通り整うが、全体的にピリピリした雰囲気はあまりない。どこの国でも試してみるように、空港の警官やセキュリティスタッフの近くで敢えて写真を撮影してみる。保安ルールやメディア規制が厳しい国や地域ではこの時点でNGが来るが、ここではまったくお咎めなし。撮影する事実よりも、むしろカメラそのものが注視されていることが面白い。
税関内で手荷物を待っていると同じ便に乗っていたバングラデシュ人の若者が笑顔で話しかけてくる。バンコクから来るのになぜタイ航空でなくユナイテッドに乗るのか?と私の旅程に興味津々である。彼らによると、外国人はあまりバングラデシュの会社に乗らないとのこと。一方で多くのバングラデシュ人には外国のエアラインは運賃が高くて乗りづらい。自国の会社はいずれも定時性でもあてにならないが、ユナイテッドは運賃が安いことで「ましな選択肢」なのだそうだ。同社はバングラデシュではLCCのような存在で、少々の機体の古さやサービスの質などは問題ではないのだろう。ちなみにユナイテッドの機内誌によると、同社は現在、エアバスA310型機でダッカ〜ロンドン線への就航も計画中だ。ホントか?とツッコミたくなるが、まあ、今後の成長が気になる会社ではある。
若者に国内路線について尋ねると、「普通の人は飛行機には乗らない」ときっぱり。国内移動では鉄道やバスが主流で、運賃が10〜100倍も違う航空便は交通機関として例外的な存在だそうだ。「暇な金持ちや政治家のためのもの」とも言い切る。外国人旅行者が気軽に利用するには、まだいろいろと敷居が高そうな雰囲気だ。
空港から市内のホテルまでタクシーを走らすと、さっそくダッカ名物の大渋滞に巻き込まれる。ほんの数キロの距離に1時間弱かかるのだから、改善の余地は大きい。途中、ドライバーが「ダッカ初の『フライオーバー』(立体交差)がこれ。これからどんどん建設されて、もっと渋滞が緩和される」と自慢げに話す。それほど渋滞は深刻なのだろう。一朝一夕に解決する問題ではないが、一般市民の国の発展への期待感は大きいと感じた。
日本から直行便のないバングラデシュ、ダッカに入るにはキャセイパシフィック航空の香港経由、タイ国際航空のバンコク経由、マレーシア航空のクアラルンプール経由、シンガポール航空のシンガポール経由などが一般的だ。日本のJICA(国際協力機構)などの開発援助関係者やビジネスマンらは圧倒的にこのようなレガシーキャリアを乗り継ぐ割合が高いと聞く。しかし私は開発援助の関係者でもビジネスマンでもなく、どこに行くにも目的地の国のエアラインを利用することを心がける一介のコストコンシャスな旅人である。今回のダッカ行きにも、バンコクから往路にユナイテッド・エアウェイズ(米ユナイテッドエアラインズとは無関係、以下「ユナイテッド」)、復路にビーマン・バングラデシュと、共に迷わずバングラデシュ国籍の会社を選んだ。
バンコク・スワンナブーム国際空港の片隅のバス搭乗ゲートから向かった先のランプに佇むのは、航空博物館の野外展示のような古ぼけたユナイテッドのデ・ハビランド・カナダDHC-8-100型機だ。色あせ剥げかけた塗装により、一瞬、主翼が凹んでいるように錯覚し、本能的な不安を覚える。機体収納式のステップから搭乗すると、機内もまた博物館展示の旧型機のモックアップのようなレトロな趣である。
バングラデシュで「新興」とされるこの航空会社をピックアップしたのは、ビーマンに比べて定時運航率が高い、と耳にしたからだ。バンコクからは期待どおりの定時出発で、幸先の良さに喜ぶ。上空では機内サービスとしてペットボトルの水と食事は配られるものの、アテンダントの姿勢は決して積極的ではなく、機内エンターテイメントは一切ない。「この会社、質素ながらも堅実なサービスがモットーなのだ」とポジティブに自分に言い聞かせるが、出発時のシートベルトサイン点灯後も旅客はキャビンを歩き回り、離陸時にも座席の足元や通路に手荷物ははみ出していたあたりは、グローバル・アライアンスを基準にすると、ただ驚くしかない。
フライトタイムは約3時間。バングラデシュ領空に差しかかる頃には午後6時を回り、周囲の空は次第に夜になってきている。しかし機内では照明は点灯されず、薄暗いままだ。読書灯もなく手元さえはっきりと見えない状態でも文句をいう乗客は一人もおらず、アテンダントはひと通りのサービスを終えてギャレイーの奥に引っ込んでしまっている。しかたがないので窓に目をやると眼下の地上にはほとんど光もなく、遠くの雷雲には稲妻が走っている。揺れに合わせてエンジンとプロペラの音が不安定に聞こえるのは気のせいだと思うことにした。暗さに慣れた目で改めて辺りを見回してみると、約70席の機内は8割り方埋まっており、南アジア人以外の風貌の旅客はどうやら私だけだ。「エラい所に来てしまった」という気持ちがこみ上げてくるが、これは旅の高揚感の一部だということにしておこう。
ダッカのハズラット・シャージャラル国際空港に到着し、入国イミグレーションに向かうが、「FOREIGN PASSPORT(外国人旅券)」のカウンターに進んだのは、私一人だ。この時間帯の到着便はユナイテッドだけなので、機内でバングラデシュ人以外は実際に私1人だったようだ。
空港ターミナルは思いのほか大きい。少々古くも一国の首都空港にふさわしい堂々たる施設である。国際空港としての旅客設備はひと通り整うが、全体的にピリピリした雰囲気はあまりない。どこの国でも試してみるように、空港の警官やセキュリティスタッフの近くで敢えて写真を撮影してみる。保安ルールやメディア規制が厳しい国や地域ではこの時点でNGが来るが、ここではまったくお咎めなし。撮影する事実よりも、むしろカメラそのものが注視されていることが面白い。
税関内で手荷物を待っていると同じ便に乗っていたバングラデシュ人の若者が笑顔で話しかけてくる。バンコクから来るのになぜタイ航空でなくユナイテッドに乗るのか?と私の旅程に興味津々である。彼らによると、外国人はあまりバングラデシュの会社に乗らないとのこと。一方で多くのバングラデシュ人には外国のエアラインは運賃が高くて乗りづらい。自国の会社はいずれも定時性でもあてにならないが、ユナイテッドは運賃が安いことで「ましな選択肢」なのだそうだ。同社はバングラデシュではLCCのような存在で、少々の機体の古さやサービスの質などは問題ではないのだろう。ちなみにユナイテッドの機内誌によると、同社は現在、エアバスA310型機でダッカ〜ロンドン線への就航も計画中だ。ホントか?とツッコミたくなるが、まあ、今後の成長が気になる会社ではある。
若者に国内路線について尋ねると、「普通の人は飛行機には乗らない」ときっぱり。国内移動では鉄道やバスが主流で、運賃が10〜100倍も違う航空便は交通機関として例外的な存在だそうだ。「暇な金持ちや政治家のためのもの」とも言い切る。外国人旅行者が気軽に利用するには、まだいろいろと敷居が高そうな雰囲気だ。
空港から市内のホテルまでタクシーを走らすと、さっそくダッカ名物の大渋滞に巻き込まれる。ほんの数キロの距離に1時間弱かかるのだから、改善の余地は大きい。途中、ドライバーが「ダッカ初の『フライオーバー』(立体交差)がこれ。これからどんどん建設されて、もっと渋滞が緩和される」と自慢げに話す。それほど渋滞は深刻なのだろう。一朝一夕に解決する問題ではないが、一般市民の国の発展への期待感は大きいと感じた。