2018年8月13日。イスラエル観光ができるのは今日で最後。肝心のエルサレム旧市街はまだ観ていない。宿のある新市街から徒歩で行ける距離の旧市街。早めに出発して少し寄り道しながら歩く。その国の営み,雰囲気を感じたいから観光客が歩くような道じゃなくてイスラエルの人が普通に歩く道を歩きたい。それにフラフラ歩くといいものに当たることが多い。
だから今日はGoogleマップはまったく見ないでなんとなく旧市街の方向に歩いてみた。うまい具合に高台にある風車がシンボルのブルームフィールド公園に辿りついた。ここから城壁に囲まれた旧市街が見渡せる 。

静かな公園から旧市街を眺める

公園の中を突っ切って,住宅街の中もくぐり抜けて旧市街へ続く門を目指す。途中でgoogleマップを悩ましげに見ている白人の男性がいて,声を掛けられた。一人で迷って心配だったようだ。目的地は同じヤッフォ門だ。彼はニューヨーカーで,昨日すでに旧市街は観光していて,家族とヤッフォ門で待ち合わせているのだけれど,フラフラ歩いて迷って不安になったそうだ。城壁上の散策路は歩いた方がいいとか,日本には昨年7月に行ったよとか,とても饒舌な都会人といった感じ。私はもう少しのんびりフラフラしたかったのだけれど,ヤッフォ門にできるだけショートカットで行きたいらしく,googleマップを見ながら,イスラエル人にも道を聞きながら,すぐにヤッフォ門に辿り着く。そのせっかちさはニューヨーカーだからか? 少々せっかちな感じがしたけれど,旅は道連れだから,まいっか。彼の安堵する様子を見てちょっと可笑しかった。
さて,彼の意見に素直に従って,城壁の上の散策から始めることにした。確かに上から眺める景色は気持ちがいい。イスラエルの一般家庭の様子も見えてしまう。洗濯物が干してあったり,バスケットボールのコートがあったり。

城壁の上から旧市街の中を眺める。立っている場所はキリスト教徒地区だが,眺めはムスリム地区で頭が混乱する

ただ,この城壁ルート,歩けど歩けど終わらない。だんだん疲れてきたし,飽きてきた。急に思い立って,途中の怪しい階段を降りることにした。何も考えずに降りたところはムスリム地区だった。さっきまでユダヤ文化を目にしていたはずだったのに急にイスラムな雰囲気になって少々面食らう。ロンドンに住んでいた頃,トルコ人が多く住むエリアに住んでいたので,今度は懐かしさが蘇る。そんな感傷を起こさせるなんて,本当に不思議な国だイスラエルは。

急にムスリムな雰囲気となり,写真を撮っていいのか一瞬たじろぐ

エリアの判断は住民の服装で。だからここはムスリム地区のはず

でも,ここからどう回ろうか。なんとなくキリスト教徒地区にある聖墳墓教会を目指すことにした。旧市街はスークと言われる屋根のついた道が多く,とても入り組んでいて方向感覚を見失う。期せずしてイエスが十字架を背負って歩いたと言われている道,ヴィア・ドロローサの1stステーションについてしまったようだ。このヴィア・ドロローサは14番目までステーションがあり,最終地が聖墳墓教会だ。せっかくだからこの道順で歩いてみることにした。申し訳ないけれど,キリスト教徒ではない私はイエスの苦難を想いながら歩くというよりも,スタンプラリーを楽しむ感覚で歩いてしまった。欧米人のツアー客だって真剣な眼差しでこの道を歩く人もいれば,楽しそうに騒ぎながら歩いている人もいるんだから,まあいいでしょう。

お土産屋が並ぶスーク

こちらは住民用のスークのようだ。ちょっと怪しげな雰囲気

ヴィア・ドロローサ3rd St.:イエスが十字架を背負って最初に躓いた場所といわれている

途中でクロワッサンを買って小腹を満たし,ヴィア・ドロローサの終点,聖墳墓教会に辿り着く。さすがにここではひざまずいて祈る人がたくさんいる。イスラエルがキリスト教発祥の地でもあることを目の当たりにしたようで,ハッとした。

ヴィア・ドロローサの終点・聖墳墓教会:跪いて祈るキリスト教徒たち

キリスト教の聖地は見た。次はユダヤ人にとって重要な嘆きの壁(Western wall)へ。正直,どの道をどう行ったのかよく覚えていない。Western wallと書かれたサインに従って行くしかない。それくらい道が複雑だ。嘆きの壁に入ること自体は無料だが,セキュリティチェックがある。日本人の私は肌の露出も少なく,宗教的になにかあるわけでもないので簡単にスルー。中に入ると,ものすごい数の人がいた。今日はなんの日なのか,たまたま混む時間帯だったのか……左側は男性,右側は女性と入れるエリアも決められている。男性側のほうでは小グループごとに歌を歌いながら何かの儀式をしているようだ。ユダヤ人が祈っているのか,観光客が押し寄せているのか,とにかくすごい人の数で中は混沌としていた。もっと静かに悲しみながら祈っているのを想像していたので,あまりのギャプに驚いた。それに暑い。嘆きの壁の向こうに見えるムスリムの岩のドームも観たいけれど行き方がわからないなあと思いつつ,ひとまず嘆きの壁から出て昼食を取ることにした。

セキュリティチェックを終えてすぐに見えた景色がこれ

男性側の嘆きの壁を上から見学する女性たち

男性側の嘆きの壁

壁の右側では何やら儀式が行われていて,ユダヤ人でごった返していた

嘆きの壁のすぐ裏にはムスリムの聖地,岩のドームが見える

昼食を食べながら,岩のドームへの行き方を調べる。ふむふむ,入れる時間帯が決まっていて,嘆きの壁の横の方から入れるのね。じゃあもう1回嘆きの壁に戻らないと。というわけで,もう1回嘆きの壁の方へ戻る。ああ,ここだったのか入り口は。ちょっとわかりにくい。しかも行ったちょうどその時間が開門時間だったらしく,待たずに入ることができた。開門時間も知らずに行って待たずに入れるとは,我ながら強運である。
そんなに肌を露出していたつもりはなかったが,ダメだと言われて上下の被り物を渡された。海外の寺院にはたくさん行っているが,露出がダメと言われたのは初めてだ。男性でも被らされている人が多数。ここはかなり露出には厳しいようだ。中に入ると,黄金のドームの姿が目の前に飛び込んでくる。きらびやかな装飾と静かに佇む様はまさにイスラム文化の美しさそのもの。なんとなく来て,タイミングよく入れて,間近で岩のドームを観られてよかった。しかし,さっきはユダヤ文化,こんどはイスラム文化,目まぐるしく変わる宗教的風景と暑さに心がちょっと追いつかない。

ゲートを通ってから岩のドームまでは案外距離がある。露出厳禁で上下被らされた人が多い

岩のドーム:ターコイズブルーの装飾と黄金色のドームが空に映えて美しい

旧市街のキリスト教地区,ムスリム地区,ユダヤ人地区も観て,残すところはアルメニア人地区だ。ん? アルメニア人? イスラエルと聞いて,アルメニア人と思い浮かべられる日本人はどれだけいるだろうか。いったいどんな宗教だろう? 一番大きな聖ヤコブ大聖堂に行ってみることにした。ここでもタイミングよくミサが行われようとしていた。どうやら観光客はこのミサの時間帯しか中に入れないらしい。またしても強運な私。
教会の中は東欧のキリスト教会の雰囲気に近い。どうやらアルメニアはキリスト教を国教とした世界最古の国らしく,アルメニア教会という独立した宗派のようだ。ミサでは聖職者が賛美歌に合わせて焚かれた香炉を振り回しながら歩く。煙を焚くのはアジアでは普通だが,西欧のミサはロウソクだ。焚かなくなるのはどこが境界だろうか。アジアでもヨーロッパでも中近東でもない,不思議なミサだった。

聖ヤコブ大聖堂内:装飾も賛美歌も独特だった

旧市街はざっと観た。1日でこれだけ観たなら十分でしょう。今日は相当歩いてヘトヘトなのでトラムに乗って新市街に戻ることにした。

旧市街で最後に見た景色は強い西陽とともに目に焼き付いている

最後の晩餐はトラムが通る街を眺められるイタリアンの店。食事の後は陽が沈む新市街をのんびり歩きながら,エルサレムの余韻を楽しむ。宿に戻って荷造りをしたり,ラウンジでお茶を飲みながら,時間を潰す。そして今夜も,昨夜も行ったJazz Bar・ Birmanへ。今日は隣の店のライブもなく,落ち着いた雰囲気だった。昨日演奏していたおじさんもいたので,一緒にライブを楽しんだ。イスラエルの最後の夜は涼しい風も吹き,お腹も耳も心も大満足に終わった。

トラムの線路沿いを歩きながら陽が沈みかけたエルサレムの新市街を眺める

ストリーソミュージシャンも時々見かけた。もちろん投げ銭!

昨夜も行ったJazz Bar・Birman:今夜は普通のJazz編成

きっとまたいつか来る気がする,そう思える国だった。
イスラエルの人々がいつまでも皆仲良く平和に暮らせますように,ただそれを願うばかりだ。
親切にしてくれたイスラエルの人々に心から感謝します。ありがとうございました。
(完)

ベン・グリオン国際空港出国ゲート

2018年8月13日。イスラエル観光ができるのは今日で最後。肝心のエルサレム旧市街はまだ観ていない。宿のある新市街から徒歩で行ける距離の旧市街。早めに出発して少し寄り道しながら歩く。その国の営み,雰囲気を感じたいから観光客が歩くような道じゃなくてイスラエルの人が普通に歩く道を歩きたい。それにフラフラ歩くといいものに当たることが多い。
だから今日はGoogleマップはまったく見ないでなんとなく旧市街の方向に歩いてみた。うまい具合に高台にある風車がシンボルのブルームフィールド公園に辿りついた。ここから城壁に囲まれた旧市街が見渡せる 。

静かな公園から旧市街を眺める

公園の中を突っ切って,住宅街の中もくぐり抜けて旧市街へ続く門を目指す。途中でgoogleマップを悩ましげに見ている白人の男性がいて,声を掛けられた。一人で迷って心配だったようだ。目的地は同じヤッフォ門だ。彼はニューヨーカーで,昨日すでに旧市街は観光していて,家族とヤッフォ門で待ち合わせているのだけれど,フラフラ歩いて迷って不安になったそうだ。城壁上の散策路は歩いた方がいいとか,日本には昨年7月に行ったよとか,とても饒舌な都会人といった感じ。私はもう少しのんびりフラフラしたかったのだけれど,ヤッフォ門にできるだけショートカットで行きたいらしく,googleマップを見ながら,イスラエル人にも道を聞きながら,すぐにヤッフォ門に辿り着く。そのせっかちさはニューヨーカーだからか? 少々せっかちな感じがしたけれど,旅は道連れだから,まいっか。彼の安堵する様子を見てちょっと可笑しかった。
さて,彼の意見に素直に従って,城壁の上の散策から始めることにした。確かに上から眺める景色は気持ちがいい。イスラエルの一般家庭の様子も見えてしまう。洗濯物が干してあったり,バスケットボールのコートがあったり。

城壁の上から旧市街の中を眺める。立っている場所はキリスト教徒地区だが,眺めはムスリム地区で頭が混乱する

ただ,この城壁ルート,歩けど歩けど終わらない。だんだん疲れてきたし,飽きてきた。急に思い立って,途中の怪しい階段を降りることにした。何も考えずに降りたところはムスリム地区だった。さっきまでユダヤ文化を目にしていたはずだったのに急にイスラムな雰囲気になって少々面食らう。ロンドンに住んでいた頃,トルコ人が多く住むエリアに住んでいたので,今度は懐かしさが蘇る。そんな感傷を起こさせるなんて,本当に不思議な国だイスラエルは。

急にムスリムな雰囲気となり,写真を撮っていいのか一瞬たじろぐ

エリアの判断は住民の服装で。だからここはムスリム地区のはず

でも,ここからどう回ろうか。なんとなくキリスト教徒地区にある聖墳墓教会を目指すことにした。旧市街はスークと言われる屋根のついた道が多く,とても入り組んでいて方向感覚を見失う。期せずしてイエスが十字架を背負って歩いたと言われている道,ヴィア・ドロローサの1stステーションについてしまったようだ。このヴィア・ドロローサは14番目までステーションがあり,最終地が聖墳墓教会だ。せっかくだからこの道順で歩いてみることにした。申し訳ないけれど,キリスト教徒ではない私はイエスの苦難を想いながら歩くというよりも,スタンプラリーを楽しむ感覚で歩いてしまった。欧米人のツアー客だって真剣な眼差しでこの道を歩く人もいれば,楽しそうに騒ぎながら歩いている人もいるんだから,まあいいでしょう。

お土産屋が並ぶスーク

こちらは住民用のスークのようだ。ちょっと怪しげな雰囲気

ヴィア・ドロローサ3rd St.:イエスが十字架を背負って最初に躓いた場所といわれている

途中でクロワッサンを買って小腹を満たし,ヴィア・ドロローサの終点,聖墳墓教会に辿り着く。さすがにここではひざまずいて祈る人がたくさんいる。イスラエルがキリスト教発祥の地でもあることを目の当たりにしたようで,ハッとした。

ヴィア・ドロローサの終点・聖墳墓教会:跪いて祈るキリスト教徒たち

キリスト教の聖地は見た。次はユダヤ人にとって重要な嘆きの壁(Western wall)へ。正直,どの道をどう行ったのかよく覚えていない。Western wallと書かれたサインに従って行くしかない。それくらい道が複雑だ。嘆きの壁に入ること自体は無料だが,セキュリティチェックがある。日本人の私は肌の露出も少なく,宗教的になにかあるわけでもないので簡単にスルー。中に入ると,ものすごい数の人がいた。今日はなんの日なのか,たまたま混む時間帯だったのか……左側は男性,右側は女性と入れるエリアも決められている。男性側のほうでは小グループごとに歌を歌いながら何かの儀式をしているようだ。ユダヤ人が祈っているのか,観光客が押し寄せているのか,とにかくすごい人の数で中は混沌としていた。もっと静かに悲しみながら祈っているのを想像していたので,あまりのギャプに驚いた。それに暑い。嘆きの壁の向こうに見えるムスリムの岩のドームも観たいけれど行き方がわからないなあと思いつつ,ひとまず嘆きの壁から出て昼食を取ることにした。

セキュリティチェックを終えてすぐに見えた景色がこれ

男性側の嘆きの壁を上から見学する女性たち

男性側の嘆きの壁

壁の右側では何やら儀式が行われていて,ユダヤ人でごった返していた

嘆きの壁のすぐ裏にはムスリムの聖地,岩のドームが見える

昼食を食べながら,岩のドームへの行き方を調べる。ふむふむ,入れる時間帯が決まっていて,嘆きの壁の横の方から入れるのね。じゃあもう1回嘆きの壁に戻らないと。というわけで,もう1回嘆きの壁の方へ戻る。ああ,ここだったのか入り口は。ちょっとわかりにくい。しかも行ったちょうどその時間が開門時間だったらしく,待たずに入ることができた。開門時間も知らずに行って待たずに入れるとは,我ながら強運である。
そんなに肌を露出していたつもりはなかったが,ダメだと言われて上下の被り物を渡された。海外の寺院にはたくさん行っているが,露出がダメと言われたのは初めてだ。男性でも被らされている人が多数。ここはかなり露出には厳しいようだ。中に入ると,黄金のドームの姿が目の前に飛び込んでくる。きらびやかな装飾と静かに佇む様はまさにイスラム文化の美しさそのもの。なんとなく来て,タイミングよく入れて,間近で岩のドームを観られてよかった。しかし,さっきはユダヤ文化,こんどはイスラム文化,目まぐるしく変わる宗教的風景と暑さに心がちょっと追いつかない。

ゲートを通ってから岩のドームまでは案外距離がある。露出厳禁で上下被らされた人が多い

岩のドーム:ターコイズブルーの装飾と黄金色のドームが空に映えて美しい

旧市街のキリスト教地区,ムスリム地区,ユダヤ人地区も観て,残すところはアルメニア人地区だ。ん? アルメニア人? イスラエルと聞いて,アルメニア人と思い浮かべられる日本人はどれだけいるだろうか。いったいどんな宗教だろう? 一番大きな聖ヤコブ大聖堂に行ってみることにした。ここでもタイミングよくミサが行われようとしていた。どうやら観光客はこのミサの時間帯しか中に入れないらしい。またしても強運な私。
教会の中は東欧のキリスト教会の雰囲気に近い。どうやらアルメニアはキリスト教を国教とした世界最古の国らしく,アルメニア教会という独立した宗派のようだ。ミサでは聖職者が賛美歌に合わせて焚かれた香炉を振り回しながら歩く。煙を焚くのはアジアでは普通だが,西欧のミサはロウソクだ。焚かなくなるのはどこが境界だろうか。アジアでもヨーロッパでも中近東でもない,不思議なミサだった。

聖ヤコブ大聖堂内:装飾も賛美歌も独特だった

旧市街はざっと観た。1日でこれだけ観たなら十分でしょう。今日は相当歩いてヘトヘトなのでトラムに乗って新市街に戻ることにした。

旧市街で最後に見た景色は強い西陽とともに目に焼き付いている

最後の晩餐はトラムが通る街を眺められるイタリアンの店。食事の後は陽が沈む新市街をのんびり歩きながら,エルサレムの余韻を楽しむ。宿に戻って荷造りをしたり,ラウンジでお茶を飲みながら,時間を潰す。そして今夜も,昨夜も行ったJazz Bar・ Birmanへ。今日は隣の店のライブもなく,落ち着いた雰囲気だった。昨日演奏していたおじさんもいたので,一緒にライブを楽しんだ。イスラエルの最後の夜は涼しい風も吹き,お腹も耳も心も大満足に終わった。

トラムの線路沿いを歩きながら陽が沈みかけたエルサレムの新市街を眺める

ストリーソミュージシャンも時々見かけた。もちろん投げ銭!

昨夜も行ったJazz Bar・Birman:今夜は普通のJazz編成

きっとまたいつか来る気がする,そう思える国だった。
イスラエルの人々がいつまでも皆仲良く平和に暮らせますように,ただそれを願うばかりだ。
親切にしてくれたイスラエルの人々に心から感謝します。ありがとうございました。
(完)

ベン・グリオン国際空港出国ゲート